「誕生日おめでとう……フレイ」


『百万本の真っ赤な薔薇が欲しいわ』


「百万本は今のぼくにはちょっと無理かな。でも、でもいつか……」


 ※※※


 ぼくは力を疎んでいだ。でもぼくは力を手放せなかった。
 力がなければ、君はそんな冷たい瞳でぼくを見ないでくれただろう。
 でも力があったからこそぼくは君のその冷たい腕で、抱き締めて貰えたんだ。
 ぼくは皆と同じ弱き者になりたかった。でもぼくはさらに強い力を欲してもいた。


 ぼくが君と同じナチュラルであったならば、君ともう少し仲良くなれたかもしれない。でもきっとそれ以上にはなれなかった。
 ぼくらの関係はそれ以上どころか、それ以下だったのかもしれない。それでもぼくは君に捨てられない為に更なる力を求めた。


 力だけが君にとってのぼくの価値全てだったから。


 ※※※


「フレイの誕生日って、いつなの?」
「三月十五日よ。何よ?プレゼントでもくれるわけ?」
「いや…そーゆうわけじゃなくて、ただ…なんとなく」
「くれないつもり!?キラったらサイテーね」
「えぇ!?ご、ごめん。あ、あげる!あげるよ!何が欲しいの?」
「そうね……百万本の真っ赤な薔薇が欲しいわ」
「ひ、ひゃくまん?」
「ふふ、冗談よ。ほんとにそんなのくれる奴いたら、気障かただの馬鹿よ」


 ※※※


 君がぼくの目の前で燃えていく少し前、ぼくは君を殺した奴にこう言い放った。


『力だけがぼくの全てじゃない!』

 今となっては馬鹿馬鹿しく寒々しい台詞。
 だってぼくにはその力すら無かったんだ。

 ぼくは誰よりも強い存在なのではない。
 逆。
 誰よりも弱く……脆過ぎた。


 こんな硝子のように脆い腕では君の盾になることすらできなかった。


 ※※※


「あれ?」
「どうしたのサイ」
「いや、見てミリアリア。フレイのお墓に薔薇が…」
「薔薇?ほんとだ!しかもお墓に白ならともかく真っ赤な薔薇って…でもフレイにはそれくらい華々しい方が喜ばれるかもね」
「………そうかもしれないな」


 三月十五日。フレイの墓には一輪の真紅の薔薇が供えてあった。


 ※※※


 君はぼくなんかに関わらなければ、きっと幸せになれたと思う。
 そのことはずっと後悔してる。これからもずっと後悔し続けるだろう。

 けど君にぼくは君と逢えて幸せだった。後悔なんかしていない。
 ずっと君を忘れやしない。


 ※※※


「あ。そろそろお花を花屋さんに注文しとかなきゃ。ちょっと出かけて来ても良いかな、シンくん」
「はい。別に今日は暇だから良いですけど…花の注文?誰かに贈るんですか?」
「うん。真っ赤な薔薇を百本」
「ひ、ひゃくほん!?」
「まだまだ全然足りないんだけどねぇ」


 ※※※


 ねぇ。フレイ。


 こんなに弱いぼくだけど、これからもぼくを必要だと言ってくれる大切な人達を守る為に足掻き続けるよ。

 この役立たずな硝子の身体が木っ端微塵に砕け散るまで。

 それまでに君に真っ赤な薔薇を百万本、贈れると良いな。

 気障だと呆れても、馬鹿だと罵ってくれても構わないから。