部屋には二人きり。
天の歌姫と、彼女を守る紫水晶の瞳を持つ青年。
「ラクスがいるからこそ、世界なんだもの。ラクスがいなくなった世界なんてぼくが消してあげる」
部屋には二人きり。
プラントの議長と、その地位を狙う翡翠の瞳を持つ青年。
「貴方は、今に世界を壊す」
かつての婚約者は、凍える声で宣言する。
「今はギリギリ秩序を守っているが、理想論ばかり並べたこの世界は、いつか現実の重みに潰される」
ラクスは否定しない。
「それが?」
酷薄な笑みはむしろそれを待っている。
「キラを苛める世界なんて、壊れてしまえばいいのですわ」
「なぁ。レイ」
「…俺はレイじゃないです…」
「だって俺の親友だろ?」
「………」
「じゃああんたはレイだ」
「…………忘れないでって言ったのは貴方なのに、その貴方が俺を忘れるなんて…酷過ぎませんか?」
レンの嘆きはもう誰にも届かない。
「戦争を止めることはできても、人を蝕む闇を食い止めることはできないなんて……私は無力ですわね」
ラクスの自嘲を聞くものもまた、誰一人としていなかった。
「もっとも、私も闇に囚われた一人なのかもしれないけれど…私は壊れているのかしら」
答えてくれる人も、やはり誰もいなかった。
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