シン・アスカ十六歳。
近いからという単純な理由で、近所の男子高校に入学して半年。
進路はもっときちんと決めるべきだったと後悔している。
学業に付いていけないのではない。
虐めでもない。……ある意味で虐めに近いが。
その理由はーーー…
「離せぇっ!」
「シンちゃーん!」
「シン姫〜!」
「抱きつくなーっ!!」
貞操の危機に直面しているからである。
「お前ら、正気か!?俺はれっきとした男だっ!」
と何百回も叫んだ台詞を今日も無駄だと思いつつも叫ぶ。
シンにはこいつらが理解できない。したくもないが。
幸いシンは腕っ節は並より強い。今日も彼らを手加減なしに打ちのめそうと拳に力を込めーーー。
振り上げる前に、シンに群がっていた取り巻き達がサッと退いた。
シンの拳から逃げたのでない。こいつらはシンの拳を喰らうのさえ喜ぶマゾだからだ。
ヤバい!このパターンは……!
「シーンっ!」
無邪気な呼び声と同時に、背中に思いっきり体重をかけられた。
「ぐぇ!」
正体は言わずものがな…
「キラ姫だ!」
「姫がお揃いだ!」
「うっ!さすがキラ姫っ!神々し過ぎて近付けない!」
毒々しい過ぎて近寄れないの間違えじゃないか?
「ごめんねー皆。ぼく、ちょっとシンと二人だけで秘密のお話したいんだー」
訳:邪魔者は消え失せろ。
「はいっ!どーぞごゆっくり!」
彼らがどう訳したかは知らないが――絶対曲解したに決まってるーーそそくさと去っていった。
ま、だれもこの女王様には逆らえまい。
シンと同じく皆から姫扱いされている先輩、キラ・ヤマト。
境遇は同じなのに、どうしてこう……待遇が違うのだろうか。
「先輩。暑苦しいし重いんで、そろそろ退いてくれません?」
「えー?ひどーい。そんな冷たい言い方。ぼく、シンのことがだーい好きなのにぃ」
「誤解を受ける発言はほんとに頼むから、もうやめてください!」
「でもぼくと一緒にいたら、あのムサい男達に毎日襲われかけることもなくなるよ?」
「アレの恨みを買う方のが嫌です!」
アレのが奴らより色々と面倒くさい。
下手するとそのうち闇討ちされかねない。
「キラから離れろっ!」
………………そら来た。
まるで狙ったかのようなタイミングでアレこと、アスラン・ザラ(先輩)が姿を見せた。
キラの唯一無二の親友(らしい)。
その眉目秀麗な顔立ちだけ見れば、知的さと高貴さが漂う……んだが。
「おはよアスラン。相変わらずキモいね」
「お前は今日も可愛いぞ」
実態はやはり類に洩れず変人だった。
そしていつものことだが、二人の会話が噛み合ってねぇ。
ともかく二人の注目がシンから逸れた今のうちに逃げようとしたのだが、あえなくキラに首根っこを掴まえられた。
「何処行くの?ぼくらこれからデートじゃない」
んな約束してねー!
「何を言ってるんだキラ!今日の放課後は俺とショッピングデート!明日は朝から映画だろ!?」
「君の脳内妄想の中の約束なんて知らない。あ、映画の券なら無くしたし。ゴメンネー」
キラも約束した覚えはないらしい。
しかし券を貰っていたと言うなら約束してたんじゃないか?
多分無理矢理押しつけられたんだろうけど、謝罪には罪悪感のかけらもない。
アスランはガーンという効果音が聞こえてきそうな顔で固まってしまった。
「なぁキラ先輩……アスラン先輩って、先輩の……親友なんですよね?」
「えぇっ?やめてよね。あっちが自称親友って吹聴してるだけだよ」
いや、むしろアスランなら自称恋人とか名乗りそうだけど。
「じゃあ、キラ先輩にとって、彼ってなんなんですか?」
「使いパシリ。いや、通行人A。違うな、人生の汚点?」
「……なるほど」
彼等の会話が平行線を辿るわけだ。
シンだってあんな幼馴染みがいたら、ウザいことこの上ないと思う。
とか言ってる間にアスランは復活を遂げた。
「ふっ。キラはおっちょこちょいだから、そんなこともあろうかと、遊園地のチケットも用意しといたんだ。気にしなくていいよキラ」
うわっ。めげなすぎ。
「じゃ、二枚ともちょうだい」
「キラに渡したら無くすじゃないか。当日渡すよ」
「イーヤ。シンとじゃなきゃデートなんて行きたくない」
だから学校外で逢ったことすらないってのに。
「キラ!キラとそのクソ餓鬼じゃ、釣り合わない!!」
二つしか違わないのに餓鬼呼ばわりされたかない。
「君の目は節穴?姫同士でぼくら超お似合いじゃない」
「ダメだ!姫の相手は王子様と相場は決まっているんだ!百合なんて認めん!!」
百合じゃなくてホモだろうよ……。
つーか確かにあんたは王子様顔だけど、自分で言うなよ。
とそこへ、混沌と化した嫌な空気の現場に救いの声が鳴り響く。
『生徒会メンバは至急〜…。繰り返します。生徒会……』
「ほら生徒会長。呼び出しだよ。バイバーイ」
そう。こんなんでもアスランはキラ以外のことでは真面で人望も熱い優等生…らしい。
よって推薦で見事生徒会長職に就いている。
「くっ!覚えてろ!シン・アスカ!!」
アスランは捨てセリフを吐いて、走っていった。
何処の三流悪役だよ。王子が雑魚に成り下がったな。
だいいち何故逆恨みを受けなければならないのか……。
俺は一度たりとも、キラ先輩との交際を肯定した覚えはないぞ!
………ぶっちゃけアスランよりキラのが恐いんで、アスランの前でキッパリそれを否定できないのがシンの現状ではあった。
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