予感がした。


「キラ?」
「え?……あぁ。ごめん」
「全く…最近じゃお互い忙しくて、たまにしか逢うことができないんだぞ?話してる時くらい、俺をないがしろにしないでくれ。実際次逢えるのはいつになるやら……」
「うーん。じゃあ、約束するよ。一年後の今日、また君と此所でお茶を飲むって。その時に積もりに積もった愚痴を、全部聞き流してあげるから」
「聞き流すってノそれよりもキラ、それは最低でも一年は逢わないって言っているのか。酷いぞ」
「あはは。ごめんね。たまのオフはもっと有意義に使いたいから」
「俺との時間は無駄扱いか?友達甲斐のない奴め!」


 幼馴染みのアスランは、久しぶりにオーブに降り立ったぼくとの他愛の無い会話を楽しんでいた。

 ぼくといえば正直上の空で。


 予感がしたんだ。
 悪い予感が。



 アスランと別れた後、ぼくは早くもプラントに帰りたい衝動へと駆られる。
 本来ならばこの後はマルキオ様と母さんに逢いに行こうと思っていたはずなのに。
 だが今すぐ引き返さなければ、間に合わないかもしれない。
 何が間に合わないのかは、ぼくにだってわからなかった。

 気がつけば携帯を取り出し、電話をかけていた。


『…キラ?』


 誰よりも愛しく美しい声がぼくを支配する。


「好きだよラクス」


 用なんて無い。
 ただ、伝えたかった。


「ぼくは、ラクスが一番好き」


 何百回でも伝えたかった。
 ラクスが決して忘れることがないように。

『キラ?』

 ラクスが戸惑っている。
 だけどぼくにだって、説明出来ないんだ。

「ちょっと言いたくなっただけ」

 本当にそれだけなのだから。
 …それだけ?
 たったそれだけのことで、ぼくは忙しいラクスに何という無駄な時間を費やさせてしまったんだろう。
 ぼくはやっと我に返った。

「ごめん!どうかしてた」

 謝るとぼくは電話を一方的に切った。




 ――その直後。



 背後から伸びてきた手に口を塞がれる。

「!!」

 有無を言わずに薬を嗅がされ、すぐに意識が朦朧とし出す。
 抵抗できるだけの力も入らなくなる身体。

 ――成す術がない。


 全く持って、ぼくの感はよく当たる。

 恐怖はなかった。

 いつかこんな日が来るとは分かっていたから。
 でも良かった。
 ラクスやアスランじゃなくて、ぼくに悪いことが起こって。


 ぼくは、死ぬのかな。
 死ぬんだろうね。


 あぁ。ラクス。
 できれば最後に瞳が映すものは君でありたかった。
 最後に君を抱き締めたかった。
 君の腕の中で息絶えたかった。

 なんてぼくは浅ましく醜いんだろう。
 欲望は止どまることを知らない。

 最後に君の声を聴くことができただけでも、ぼくは充分幸せなのに。





 ――ラク…ス。