「私、アスランさんに告白する!」
遂にメイリンは決意を固めたらしい。
「応援してるよ。頑張って」
「キラも付いてきて!」
「えーっ?」
告白現場に居会わせるのは気まずくて嫌いなのに。
結局ぼくはメイリンの押しに負けた。
こうなったら腹を括って、恋のキューピット役を務めあげましょう。
「どうした、キラ。お前がクラスに来るなんて珍しいな」
廊下に呼び出されたアスランは不思議そうにぼくを見た。
そりゃあ、ぼくだって上級生のクラスになんか、あまり来たいとは思わない。
だけどメイリンに命令…じゃなくお願いされたんで、仕方なくね。
だがそんなことは露知らず、アスランはこう思ったようだ。
「宿題を忘れてきて教えて欲しいとか?」
ハズレ。確かに宿題はサッパリ忘れてきましたが、クラスメイトのサイのノートを丸写ししたんで大丈夫。
「違う。ちょっと着いてきて」
「? ああ」
とっととメイリンの元へアスランを連れて行こう。
彼のクラスの女子達の睨み付ける視線が痛い…。廊下を歩き出してもそれは変わらず。
嫉妬はぼくじゃなくメイリンにしてね。
そうだ。行く前にメイリンに脈はあるのか、さり気なく聞いてみるか。
「ね。アスラン。メイリンって可愛いよね?」
「あ、あ…ぁああ。そうだな」
超動揺。
顔真っ赤。
……解り易っ!
大丈夫だよメイリン!脈大ありだよ!
もしぼくの友達っていう認識しかなくて、素で「それ誰だっけ?」て言われたらどうしようかと思ったけど(過去に経験あり)君はちゃんと覚えられてたよ。ていうか目茶苦茶気にされてたみたい。ぼくもちょっと(ちょっと?)鈍いから気付けなかったよ。
でもこれで君の失恋の愚痴を延々と聞かされるハメには陥らなそうでぼくは一安心だ。
ぶっちゃけそれが一番の心配事だった。
「連れてきたよメイリン」
メイリンが告白場所に選んだのは、学校を裏から出てすぐの小さな公園だった。
最近できたばかりなのだが、うちの学校の生徒にとっての隠れ告白スポットらしい。
てことはアスランなんか既に何回か此処に呼び出されてるんじゃないかな。確実に。
「メ、メイリン?」
どういうことだと後ろから着いてきたアスランが、ぼくに目で訴える。
此処に連れてこられて、さらにメイリンがいるというのに、まだ事態を把握できないらしい。
鈍いなぁ。此処まで来たら察してよ。
そんな鈍男が大好きなメイリンは、今までそわそわと逸らしていた瞳を真っ直ぐにアスランへと向ける。 その瞳はうるうると潤んでいて、頬はピンクに染まっている。
計算ではない本気の恋する乙女の表情は可愛いなぁ、とぼくは微笑ましく思う。
彼女は大きく息を吸い込んで、吐くと同時に想いも一緒に告白する。
「私!アスランさんがずっと好きでっ!」
告白され慣れしてそうなアスランの反応はというと……先程より顔がさらに真っ赤に染まって固まっている。こう思っちゃ失礼だが…面白い顔だなぁ。いや、笑っちゃいけない。ムードをぶち壊したら後でメイリンに何言われるか……。
しかしそのメイリンこそ、空気を微妙にするズレたことを言い出したのだ。
告白の後に紡いだ言葉はこうだった。
「で、でもアスランさんはキラのことが好きなんじゃないかって心配になって」
まだそのネタ引っ張ってたの?
心配性だなぁ。
ぼくは呆れながらアスランを見てみると、やはりアスランも昨日ぼくがそれを聞かされた時同様に仰天しついる。
慌ててアスランからも誤解を解いてくれた。
「はぁ?俺にとってキラは可愛い弟…じゃなかった、妹だ!そんな対象として見たことはない」
ほら。そもそも女としてすら見られてないって。まぁぼく自身もわりとどっちでもいいんだけどね。性別なんて。
でもこれを気にシスコンだかブラコン気味の君の過保護さが少しでも改善されると嬉しいな。
正直ウザイから。
そんなぼくの心情はさておき、二人の空気は再び甘い雰囲気に戻っていく。
そしてアスランは遂に言った。
「俺も…君が好きだ」
「アスランさんっ」
想いが通じ合えるとは期待していなかったのか、感極まって涙を零すメイリン。
アスランはそんな彼女の涙を優しく拭う。
見つめ合う二人。
うんうん。
これでハッピーエンド。邪魔者は退散しよう。
としたのだが…。
突如アスランは先ほどとは打って変わり、幸せムードを自らぶち壊すような悲壮な顔をし、何かを口にしようとして…言い辛そうにメイリンから視線を背けた。
「アスランさん?」
急に変わったアスランの態度にメイリンも不安そうだ。
一体どうしたっていうのさ、アスラン。
挙動不審な幼なじみに、ぼくはメイリンに変わって口を挟もうとしたが、その前にアスランの決意は固まったようだ。
彼は辛そうにぼくも初耳の爆弾発言を投下したのだった。
「ただ、俺には親が決めた婚約者がいるんだ」
|