「えぇっ?そんな話、ぼく聞いたことないよ」
「キラ!?お前いつからそこに?」

  君を此所に連れてきたのはぼくだっての。

「ほんとだキラ。まだいたの?」

  一緒にいてとか言ったのは君でしょうが。君ら冗談ではなく、本気でぼくのこと忘れ去ってたな。
 と、そんなことより!

「ぼくのことはさておき、婚約者って何なのさ」
「…父が決めた許嫁だ」

 なんか言い方変えて誤摩化そうとしてるっぽいけど、意味同じじゃん。

「だから、何でぼくにまで内緒にしてたのさ」

 アスランがぼくにそんなでっかい秘密事をしていたなんてなんだかショックだ。なんでも話し合える幼馴染みだと信じていたのに!(そーゆーぼくはわりと君に隠し事と嘘ばかり付いてるけどね)

「キラ…それはだなーー…」


『あんなに一緒だったのに〜♪』


「……アスラン。その着うたやめてって何度も言ってるじゃない」
「良い曲じゃないか。もしもし……え?か、彼女が家に?」

 アスランの顔色がみるみる青ざめ強張っていく。

「すまないキラ、メイリン!俺は早退する!」
「へ?」
「ア、アスランさん?」

 止める間もなく彼は脱兎のごとく駆け出し、公園から去っていった。




 唖然。
 呆然。
 そんな感情から復活を遂げ始めた時、メイリンはふるふると拳を震わせて、こう推理した。

「彼女って言ったわ。きっと婚約者とやらが私とアスランさんの仲を邪魔しにきたのよ」

 ぼくも婚約者かなぁ、とは思ったけど…なんで婚約者が来た反応がアレなんだろう?少なくとも喜んではいなかったよね。

「……仮に婚約者が来たんだとしても、それはないんじゃない?偶然でしょ」

 第一、君とアスランの仲はまだ始まってすらいないし。

「女の感は馬鹿にならないものよ」

 自信満々に言われても、君の感はやっぱり当てにならないよ。ぼくとアスランの関係を、感で変な方向に疑ったくらいだし。
 だがメイリンは異様に燃えていた。

「婚約者に戦線布告してくる!私、もう逃げないもん!」

 昨日まで告白するのもためらい羞じらってたとは思えない大胆発言だ。
 ま、頑張れ。
 ドラマみたいに行けば君が勝つんじゃないかな。真実の愛は勝つ!みたいな。

「よし!乗り込むわよキラ!」

 ってぼくも込み?
 ぼくの意思は?了承は?一切無視?
 ぼくはメイリンにしっかりと袖を引っ張られて走りながら嘆く。
 あ〜。ぼくまで学校サボるハメに。アスランの馬鹿(八つ当たり)!!






「なっ!キラ!?メイリン!?お前達何故家に?」

 アスランは彼の自宅の門前にいた。
 なんで中に入らないんだろう。

「鍵でも忘れたの?」
「…違う。キラじゃあるまいし」

 ぼくは忘れたってヘアピンさえあれば入れるもの。

「じゃあ婚約者の出迎えですか?」

 メイリンの指摘にアスランはギクリと反応を見せる。
 ビンゴのようだ。

「わ、私諦め切れません!婚約者がいるなら正々堂々と勝負します!」

 それにぼくを付き合わせないでよ。
 絶対修羅場になるよ修羅場。
 アスランもそう思ったのか、血の気の引いた顔でぼくらを追い払おうとした。

「だ、ダメだ!今すぐ帰……」

 だが彼が言い終える前に、黒塗りの車がこちらに向かって走ってきた。
 うわっ。ベンツだよ。

「しまった!」

 アスランの慌て様から察するに、あの車に婚約者は乗っているらしい。そういえばつい忘れてしまうが、アスランも大企業の御曹司だっけ。では相手も何処かのご令嬢様なのかもしれない。
 改めて考えると世界が違う気がする。メイリン、諦めた方が得策なんじゃ……。
 そうこう考えているうちにベンツはぼくらの前までやってきて止まった。
 運転席の男性がまず降りてきて、助手席のドアを開く。

 エスコートされて降りて立ったのは


「お久し振りですわ。アスラン」


 ……うわぁ。

 メイリン、君の負けは決定かも。

 現れたアスランの婚約者は、誰もが見惚れる絶世の美少女だった。本当にアスランは既に高嶺の花に奪われてたみたいだね。
 自信満々だったメイリンも、相手の美少女ぶりにド肝を抜かれたようだ。

 信じられない、と目を疑うように見開いて叫んだ。


「……うそ。ラクス・クライン!?」