ラクス・クライン。

 メイリンはアスランの婚約者の名をこう呼んだ。


「え?メイリンの知り合いだったの?」
「まさか!」
「じゃあ、なんで名前知ってるの?」
「だってあのラクス・クラインよ?うそっ!キラ貴方マジで知らないの?」
「……うん」

 なんで地球外生命体を見る様な目で見るのさ。
 アスランが教えてくれなかったんだから、彼女を知らないのは当たり前じゃないか。
 それとも綺麗な人だし、モデル…とかなのかな?

「あらあらあら」

 物珍しげに、婚約者さんはぼくを見た。
 何やら愉快気に微笑えんで、握手を求めて白い手を差し出された。顔だけじゃなくて手だけでも見惚れそうだ。こんな美人が婚約者だなんて、さすがだなアスラン。

「初めまして。ラクス・クラインですわ」
「キラ・ヤマトです」
「まぁ。貴方がキラ様ですのね。アスランのお話通り可愛らしいお方」

 いやいや。貴方の方が断然可愛いです。

「あのラクス…さん。いやラクス様?…は、有名な方なんですか?」
「ラクスと呼び捨てで良いですわよ」
「じゃあぼくもキラって読んで下さい」
「はい。キラ」

 と、和やかなに挨拶が進んでいたのだが ――。

「ち、ちょっとキラ!天下のラクス・クラインを呼び捨てなんて畏れ知らず過ぎっ!」
「君だってフルネームで呼び捨ててるじゃない」

 は!と指摘されてそのことに気付いたらしいメイリンは青褪める。

「す、すみません!ラクス様!」
「いえいえ」

 ラクスは相変わらず輝く微笑を振りまいていて、怒る様子も無い。
 ただそれまで黙っていたアスランが唸った。
 観念の溜め息を吐く。

「バレてしまったなら仕方が無い……内緒にしておいてくれないか?キラ、メイリン」
「はい!」

 即座に納得したとばかりに頷くメイリンと違って、ぼくには未だ事態がさっぱりなんだけど……何が内緒なわけ?

「すまないな、キラ。俺もお前に隠し事なんてしたくはなかったんだが相手がラクスじゃな」
「ラクスが婚約者だと、何か問題でもあるの?」
「お前本当にラクスを知らないのか?」
「………うん」

 だからその地球外生命体を見る様な目はやめて……。
 彼女は一体何だって言うんだよ。

「ラクスは現総理大臣の娘にして世界的に活躍する歌姫だ」
「先月チャリティで出したCDが、世界新記録の売上げ枚数を樹立中の平和の女神様なのよ!?」

 ……そうりだいじんのむすめ……へいわのめがみ…さま……。

  ――――――――本当に凄い肩書きと実績を持った超人のようだ。

 アスランは呆れて突っ込む。

「ゲームばかりしてるから世間に疎くなるんだ」

 ちらりと窺う様に彼女を見れば、当のラクスは無知なぼくを咎めることはなく、微笑み返された。

「ふふふ。気に入りましたわキラ」

 何故だか嫌われるどころか好かれたらしい。
 それはとても嬉しい。だけど……

 その目が獲物を狩る狩人の様に危なく光ってみえたのは……ぼくの気のせいだよね?