さて怒濤の急展開の後は、まったりと他愛もない話で和やかに時間は過ぎていっていたのだが……。
「きゃあっ!」
「!」
「ラクスっ!?」
お茶を注ごうとしたラクスが誤ってポットを落としてしまい、中の紅茶はラクス自身と近場にいたぼくへと降りかかった。
「あぁ!ごめんなさいキラ、お洋服が…」
「いや、ぼくの服より君の高そうな服が…勿体ない」
「服より火傷は!?」
お互いの服の心配ばかりする二人の間にアスランが割って入る。 だが幸いにも肉体に損傷はなかった。
「大丈夫。もうだいぶ冷めてたみたいだから」
ポットも頑丈なのか割れてないし。
問題は服だ。
「ラクス、うちはすぐ隣だから来てくれる?服を貸すよ」
お嬢様に庶民の服を貸すのはどうかと思うが、アスランは一人息子なので、彼の家に着替えはないだろう。
「ありがとうございます。服をお汚ししてしまったのは私なのに、申し訳ありません」
「いいえ。気にしないで」
ぼくはラクスを、アスランの屋敷のお隣りの平凡な民家であるぼくの家へと誘った。
「……あの、ごめん。安っぽい服しかなくって」
「いいえ。可愛らしい服ですわね」
タンスを漁って、なるべくマシなものをとラクスに渡したのはピンクのフリル付きワンピース。
母がたまには女らしい格好もしろと買って来た代物だが、機能性が悪いのでほとんど袖を通していない。やっぱりぼくはラフな格好のが好きだ。
「じゃあ、汚れちゃった服、脱いでくれる?一応洗ってみるから」
この前、テレビでやってた染み抜き術が使えるかもしれない。
ぼくの服はともかく、ラクスの高そうな服がこれでお釈迦になるのは勿体ない。
しかしラクスはなかなか脱ごうとはしない。ぼくが不審に思って、首を傾げると、ラクスは恥じらうように胸元を手で隠した。
「私、胸が無いので……恥ずかしくて」
思わず胸元に視線が行く。そこには豊かな膨らみが確かにある。
「充分あると思うよ」
少なくともCはありそう。
だがラクスは首を振った。
「パットですの」
あ。なるほど。芸能人(?)でもそういうの使うんだー。
「大丈夫。ぼくも小さい」
小さい方が、邪魔じゃなくて楽じゃん。と特に気にもしてないぼくは、女の子として失格かもしれない。
「でも、私」
彼女は意を決したのか、ボタンを外し、汚れた服を脱ぐ。
「全くありませんの」
ラクスの上半身は、白く統べらかで陶器でできたお人形のよう。
そしてブラを外して、晒された胸元は―――少しの膨らみもなく、真っ平らだった。
ぼくだって、胸は小さいがお情け程度には膨らみがあるのに。
「え、えーっと……」
ど、どうフォローすれば。
いや、顔も声も総てがパーフェクトなんだから胸くらい全くなくったって………うん。
「け、欠点なんて誰にでもあるよ。全世界の君のファンだって、胸の大きさで君を好きになったわけじゃないんだし」
………多分。
てか我ながら変なフォローになっちゃってるよ。メイリンのこと馬鹿にできないな。
で、当のラクスはというと、お腹をかかえて大爆笑し出した。
え?呆れられるかと思ったのに。そんなにツボに入ること言った?
「私は秘密を暴露したつもりでしたのに、ボケで返されるなんて、キラは本当に可愛らしい方」
ボケ?
ぼく、自分ではツッコミ属性のつもりだったんだけど。
「私の秘密、まだわかりません?」
ラクスの美しいソプラノの声が、若干低いアルトへと変わった。
「私、女の子ではありませんの」
品のある中性的なアルトの声は、そうぼくに秘密を打ち明けたのだった。
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