「アスランはとっても良い友人ですわね」

 今の一件で彼女……彼(にやっぱり、見えないけど)的にアスランの株は上がったらしい。
 ぼく的には大暴落だけどね……。
 なんたって、未だぼくは先程と変わらず、ベットの上でラクスに馬乗りされた状態でいるのだ。
 万事休す!!
 だがアスランの役に立たない乱入のおかげで、少しだけ頭の冷えたぼくは、幾分冷静に対処できそうになっていた。
 そう。ラクスは天然。天然なんだ。だから、 だから指摘すれば分かってくれるはずだ。
 ぼくはラクスの地声よりも低い声で喋った。

「君が男性だというのなら、紳士的な対応をお願いしたいんだけど」
「あらあら?そうですわね。考えて見れば、これではケダモノですわよね」

 考えてみなくてもそうです!
 ともあれようやくラクスは、ぼくの上から退いてくれた。
 起き上がったぼくは安全確保の為に、ベットからイスに座る場所を変えてからラクスに聞いた。

「ねぇ。どうして性別を偽ってるの?」
「実はかくかくしかじかで……」

 誤魔化すか躊躇われるかと思ったのに、彼女…じゃなくて彼はあっさりと白状した。



 始まりは、ちょっとしたお遊びだったらしい。
 娘が欲しかったラクスのお母さんは、よく幼いラクスを女装させて楽しんでいた。
 七歳くらいの頃だっただろうか。
 とあるパーティでラクスは女装した姿で歌を披露したのだが、それを偶然にもそのパーティに居合わせたアスランのお父さんが見ていたらしい。
 アスランのお父さんは、この頃から息子の婚約者を探していたらしく、ラクスのお父さんが将来有望株の逸材であると知ると、婚約を持ち掛けて来たのだとか。それも滅茶苦茶強引に……。



「つまる話、総ての元凶はアスランのお父さん?」

 道理でアスランに対してちょっぴり毒々しいはずだ。
 でもラクスは否定した。
 切っ掛けはそうではあったが、もっときちんと話し合えばラクスが男であることなど、すぐに証明できた。
 それをしなかったのは、パトリックの『息子と婚約してくれるなら、彼女を全面的にバックアップをしてあげよう。彼女の歌声は世界に通用する』という甘い言葉。
 父でも母でもない。ラクス自身がその条件に乗ったのだ。
 おそらく自分の声は男としてでは売れない。女としてでもいい。世界に自分の歌声を響かせてみたい、と。
 それからはパトリックを始め、世界中の人々に男だとバレぬように色々な隠蔽工作を行い隠してきた。
 せめて声変わりの時期までは、と。
 しかし幸か不幸か声変わりをしても若干低くなった程度で、ラクスの美声にはほとんど変化がみられなかったのだ。


 これならまだ続けられる!!


「選んだのは私」

 曇りなき強い意思を持つ声と瞳。
 可憐に見えた端整な顔が、今ではとても凛々しく見える。

「けれどキラの為なら『歌姫』を捨てても構いませんわ」
「え?」
「何故私が今まで必死に隠していた秘密を、キラにお教えしたと思います?」
「それは」


 ……わからない。
 ――――何故?


「好きな方に、隠し事はしたくありませんから」


 ……すき?
 ――――だれを?


「キラが好きです」


 ラクスはこれまでになく真摯にぼくを見ていた。
 そこに冗談など微塵も感じられない。
 本当に、本気で告白されているんだ。ぼくは。
 未だラクスが男と暴露した辺りのショックからも立ち直れていないぼくの頭は、もはやショート寸前なのに追い討ちをかけるように、またラクスは口を開く。

 なにっ?今度は何を言う気だ?



「キラが望むなら男らしくなってやるぜ」



 ぷっ!

 真剣なラクスには悪いが、思わず吹き出してしまった。
 ガッツポーズに無理して落とした低い声。
 ラクス的に男らしさをビシッと表現したつもりなんだろうが、似合わな過ぎる。


「変だよ。無理しないでいいから。ぼくは今のままの君がのが好き」


 他意はなかった。
 なのに−−−…


「まぁ!」

 再びソプラノのキーに声調を上げたラクスは、キラキラとした瞳でぼくをみつめ、さらにぼくの手をギュッと握り締めながら、歓喜に溢れる声で言った。

「有りのままの私の想いを受け入れてくれるのですね!」

 えぇっ?いや違う!そういう意味で言ったんじゃなくて!!

 という弁論を吐こうとした口は、ラクスの桜色の唇に塞がれ、言葉になることはなかった。