lie ~before~ Athrurn



   お前が俺の望む親友でなくなってしまったように、俺もまた、お前の望む親友ではなくなっていたみたいだな。
 気がついた時には後の祭り。
 粉々に砕けた心は、どう修正しても、穴だらけで歪むばかり。




   あの日、例の慰霊碑の前に俺を呼び出したキラ。
 お前はギリギリのところで膠着状態を保っていた、名ばかりの親友という関係をものの見事に打ち壊してしまったな。

   それともお前は端から死刑台に上るつもりでやってきたのかな。
「ザフトに行くだと?」

『うん』

「お前は今、オーブ軍中将という重要な立場にいるんだぞ?」

『じゃあ、それアスランにあげるよ

 昇進、おめでと。アスラン

 ぼくは地位も所属する軍もどうだっていい。ラクスと一緒にいられれば何もいらない』

「そうか」

『うん』

 ラクスの為なら総てを捨てられるキラ。  俺すらも捨てて行くキラ。

「俺はそんなお前なんていらない」

 捨てられる前に捨ててしまえ。

br> 「消えろ」





 お前は消えなかった。
 ただ、お前の中から俺は消えた。


 消されたのは俺…
 いらないのは……俺?


 だけどキラ、
 本当に俺を消したのなら、何故俺を憎む?何故俺に怯える?

 俺がお前の大切なラクスの敵だから?

 違うな。
 お前は俺を消し切れていないんだ。

 『親友』の俺はいない。
 だがお前を殺そうとした俺は、お前の心に呪印の如く、焼残っているんだ。


 さぁ、いつまで茶番を続ける気だ?キラ。


 ラクスと共に世界を壊すまで?
 それとも、今度こそ俺がお前を殺すまで?

 きっとお前は抵抗せずに、俺からの死の宣告を受け入れるだろう。
 決して視線を逸らさずに、俺の憎しみを受け入れるだろう。


 けど残念だなキラ。
 俺はもうお前を殺す気など、とうに失せているんだ。
 何故?
 何故って、それはお前が最後に見せるであろう姿のせいだ。

 今から殺されると言うのに、
 口元は勝ち誇ったように薄く笑っていて、
 瞳は裏切りに絶望した涙を流して、

 その手は、俺に縋り付こうと虚空に伸ばされーー俺は一瞬掴もうとしてーー躊躇った手はお前を見捨てる。

 そしてお前は小さく呟く。


「ごめんね」


 呪いの言葉を吐いて死ぬんだ。

 早くお前の存在を忘れてしまいたい俺の中に、永遠にお前を遺す呪いの言葉を。

 お前が俺を畏れるように、俺もお前が怖いんだよキラ。