せめて笑顔のままで 6









「……銃は…貴方には似合わないから、俺が貰うよ」

 シンはキラの右手に握られていた銃を、そっと離させて貰い請けると、直ぐさまアスラン達の後を追った。





 全力疾走で突走った為、彼等がラクスに接触する前に追い付くことができた。

「止まれアスランっ!」
「……」

 彼等を追い越して、その進路を阻む様に仁王立ちした。

「邪魔だ。退け」
「なんで…なんでなんだよっ!何故キラを殺した!?」
「キラもラクスも狂った。これ以上彼らを生かしておくと、甚大な被害が出る」
「キラはさっき正気に戻ってたんだ!なのにっ…なのにあんたはっ!狂ったのはあんたの方だろ!?」
「一度狂った者がそう簡単に正気に戻るか。お前の錯覚だ。俺が撃たなければお前がキラに殺されていた」
「違う!!」

 埒が飽かないと見たのか、アスランは溜め息を吐いた。
 呆れた様子でシンを侮蔑する。

「お前はエクステンデットの少女を亡くした時から少しも成長していないんだな」

 煽る様な挑発台詞にシンの理性は遂にぶち切れた。

「あんたって人はーっ!」

 思わずトリガーに手がかかる。
 アスラン達も同様に銃をこちらに向け、緊迫した臨戦状態になる。


 そこへ美しい声が割込んできた。

「まぁまぁお二人とも楽しげに何の話をなさってるんです?私も混ぜてくださいな」

 にこにこと近付いてきたのは、アスランにとっての標的、シンにとってのキラから託された最後の願いだった。

「それにしても遅いですわねー。大遅刻ですわ。お二人とも、キラを見掛けませんでしたか?」

 事態を把握していないラクスは場違いなくらい和やかな声で聞く。
 シンが答えらないでいると、先にアスランが淡々と答えた。

「俺が今さっき殺してきました」
「まぁ!なぜ?」

 驚嘆しているが、そこに哀しみが憎しみの感情はない。

「キラはコーディネータですから死ぬ必要なんてないのに。困りましたわね。お出かけしたかったのに」

 余りに軽い彼女の言動に、シンは耐えた。
 最後の願いの為にも。

「俺は最期にヤマト隊長から議長の護衛を任じられました」
「あら。そうでしたの。それではすぐ行きましょう」

 ラクスは右手に銃を左手にシンの手を掴んで、軽やかに歩き出す。
 待ち構えるアスラン達の銃など気にも止めていない。

「何処に?」

 議長は無邪気に答えた。

「もちろんナチュラルを虐殺しにですわ」





「議長。この書類にサインをお願いします」

 シンが扉を開けて姿を現すと、ラクスは明らかに落胆した様子を見せた。

「あら…キラは一緒ではありませんの?」
「残念ながら」

 何故だか理不尽にもキラを連れてこなかったことに罪悪感を感じてしまい、多少ふて腐れながらシンは返事を返した。
 ラクスは溜息を吐く。

「ええ。残念ですわ。今日はまだ一度も逢ってません…」

 惚気はキラから充分過ぎるほど聞いている。するなら他の人にして欲しい。

「キラは来ると議長が仕事をサボると、ジュール隊長が喚……いや、嘆いてましたよ」
「だって仕方ないじゃありませんか。仕事よりキラですわ」

 そりゃそうだろうが…トップがそれでいいのか?

「キラのことのが大好きなんですもの」

 そう惚気るラクスは極上の笑顔で、その場にいた周囲の者の顔を真っ赤に染まらせた。
 シンも例外に漏れず、馬鹿ップルぶりに呆れていたはずが、つい見惚れてしまった。

 アイドルの顔でも、為政者の顔でもない。
 恋する乙女の顔のラクスは、何よりも美しいとシンは思った。


 きっと彼女はいつだってキラの前では一番美しい姿でいるのだと――……







 銃声が鳴った