再三言うように、ここは来月閉園する予定の潰れかけの遊園地。
 すでに閉鎖しているアトラクションも幾つかある。キラが今立っている場所もその一つだ。
 あえて古ぼけた雰囲気に作られたのであろう洋館風のお化け屋敷は、放置によって蜘蛛の巣や蔦がそこら中に張り巡らされ、汚れ壊れ、廃屋と化している。

 何故キラがこの場所に足を止めたかといえば、

『世界の終わりへようこそ』

 という字の躍ったお化け屋敷の看板のせいだった。
 キラはこのキャッチフレーズに心惹かれた。

 世界はまだ終わらない。
 これからも議長が創り出す偽りの世界が廻り続けるだろう。

 しかしキラとラクスの世界はもうすぐ終焉を迎える。

「さぁアスラン。早く来て。ぼくらの世界が閉じる前に」

 決して迎えになどいかない。
 これが己の最後の役割だと勝手にキラは思っているが、あくまで選ぶ選択肢はアスランにある。
 もしアスランがキラに辿り着けなかったなら……きっとこれが二人の運命だったのだと諦めるしかない。
 最後まで擦れ違う運命だったのだと。
 それは哀しいけど寂しくはない。
 アスランとの関係を悪化させたのはキラの自業自得だし、キラにはラクスがいるから孤独ではない。
 先程の誓いの儀式により、ラクスとキラの運命は同じ一本の線となった。
 最期の時を同じ場所で迎えられなくても、心はずっと繋がっていて、共に終わるとわかるから、何も怖くなんてない。
 自らの世界の最果てまできてやっと、キラは総てを達観できた気がした。
 だからキラは、ただ待つ。
 命の砂時計が刻々と流れ落ちてゆくことなど気にもせず、トリィと戯れながら、ただ穏やかに。
 運命が導く遠くない未来を待った。











 朽ちた遊園地を徘徊しながらアスランは物思いに耽っていた。
 キラがラクスを連れ逃げたと聞いた時は、何故脱走など馬鹿げたことをやらかしたのだろうと本当に驚いた。
 アスランを騙し出し抜いてまで、議長の右腕という地位に上り詰めた彼が何故、と。
 きっと…ラクスが唆したのだ。そうに違いない。

 遊園地のお化け屋敷の前にあたかも幽霊のように、ひっそりと立ちすくむ影が一つ。

 キラはいた。

 が、

 ラクスがいない。
 二人をワンセットで考えていた自分が腹立たしい。
 本来なら昔ならラクスのポジションに自分がいたのにはずなのに。
 舌打ちしながらアスランは携帯電話を取り出した。

『はい』
「………俺だ」
「…うん」
『独りか』
「うん」
『ラクスは?』
「君はぼくに用があるんじゃないの?そう思うのはぼくの自惚れだったのかなぁ」
『時間稼ぎのつもりか?お前が囮になってラクスを逃がす算段なら無駄だ』
「ぼくらは逃げも隠れもしないよ」
『では何故お前は今一人でいる』
「やっぱりもうぼくを見つけてるんだね。なら早く来て。ぼくは君を待っていたんだ」


 プツ
 ピーピーピー


 アスランは通話を一方的に切ると、ゆっくりとキラに近付いていった。
 キラもこちらに気付いて、ゆっくり振り反る。
 敵を迎え撃つというな厳しい視線ではなく、迎え入れるような優しく慈愛に満ちた瞳でアスランを見ている。
 その雰囲気がまるでラクスのようだとアスランには思え、癇に障った。
 昔は手に取るようにキラの考えていることが分かったのに、今ではさっぱり分からない。表情から内面を窺うことすら不可能だ。

 どんどん近付いていっているのに、彼の姿が鮮明になってゆくほど、二人の間にどうしようもなく分厚い壁が隔たっていることがわかり、彼が遠のいていっている気がした。